京の路地から From Kyoto with Love

Why don't you visit Kyoto to meet something new? 京都は私の空気、水のようなもの。新しい京都、古い京都。その中で、日々綴った、現代の枕草子。

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Location: 京都市, 京都府, Japan

悪戯な好奇心の猿一匹、飼っています。Keeping a curious monkey in my mind.

Apr 26, 2010

亀吉くん

 もう随分前のことですが、多分1970年代の始め頃、ある受験生に相談を受けたことがありました。相談をもちかけたのは、当時ヒットしていたアニメ「がきデカ」の登場人物で、亀吉というキャラによく似ていたことから、仲間うちで亀吉と呼びならわされていた好青年で、自分でも亀吉を自称していました。失礼ながらご本名を失念してしまったので、ここでも亀吉くんと呼ばせていただきます。

 相談の内容は受験に関することで、大阪芸術大学の文芸学科?を受験するとかで、面接試験があって、その対策に何か読んでおいた方がいいかどうか、ということでした。その時、本人の考えでは、当時国語の教科書等にもよく採用されていた評論家の小林秀雄でも読んでおこうかと思うがどうだろうか、というご相談でした。

 小林秀雄は当時の受験生なら知らぬ人とてない、評論家の雄でしたから、一般的な教養という点からいえば、それで問題ないものと思いましたが、相手が「文芸学科」となると、ちょっと待てよ、と感じたので、次のアドバイスをしてあげました。
 当時でもあまり知られていなかったことですが、かつて1929年に「文芸」という雑誌の懸賞募集で文芸評論部門の2位に入賞したのが小林秀雄でした。その時に1位だったのが、元日本共産党委員長で当時東京大学在籍中の宮本顕治(作家宮本百合子の夫だった人です)で、芥川龍之介を論じた「敗北の文学」だったことを教えてあげました。私自身「敗北の文学」を読んでいなかったので、その評論の内容に関しては何も言ってあげられなかったのですが、個人的な趣味からも、小林秀雄はあまり好きでなかったこともあり、そんなアドバイスになったものと記憶します。同じ懸賞の創作部門では、結果は存じ上げませんが、若き日の太宰治も応募していたようです。
http://blog.goo.ne.jp/kakattekonnkai_2006/e/4730ca0e0105df84b65b181ad3a26761
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/miyamotokennji.htm

 そんなことがあってから、忘れた頃に亀吉くんが訪ねて来て、うれしそうな顔で、面接で「宮本顕治の敗北の文学を知っていますか」、と訊かれたと言っていました。ああ、彼は合格したな、と思いました。

 文芸を専門にする専門家が、流行の書や、ベストセラーを読み漁っているようでは心許ないというのが、多分学部の考え方で、私自身も、一般の人たちでも、そのような読書は身にならないと思っています。芥川賞や直木賞をとったからといって、名著とは限りません。次から次と消費されていく流行の歌を追いかけている質の低い音楽文化と同じで、当座「売れるものを書く」というか、「書かせる」という出版界の姿勢そのものが、健全な文化の敵だと思います。大阪芸術大学の文芸学科は、そんな姿勢を、新入生の資質として問いたかったのだと思いました。
http://www.warewaredan.com/haibokuno-bungaku.html

 その亀吉くんとはそれ以来没交渉なので、彼がその後どうなったのか不明です。今頃は、それなりのもの書きになっているかも知れないし、または母校で教鞭をとっているのかも知れません。ものごとはちょっと角度を変えて見ると、自分の考えていたこととは全く異なる側面が見えてくることがある、という実例として、紹介させていただきました。

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