京の路地から From Kyoto with Love

Why don't you visit Kyoto to meet something new? 京都は私の空気、水のようなもの。新しい京都、古い京都。その中で、日々綴った、現代の枕草子。

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Location: 京都市, 京都府, Japan

悪戯な好奇心の猿一匹、飼っています。Keeping a curious monkey in my mind.

May 2, 2010

プロポーズ

(この文章は書き抜きです。)

 マンチェスター・イブニング・ニュースによると、二十四才のヘザー・ヒッキーさんはイギリス人で、二児の母である。とても有名な海賊映画のシリーズ三作目を見に行くのを楽しみにしていた。ヘザーさんは、恋人のマーク・スペンサー君、彼は二十七才、と連れだって、オデオン座にでかけた。マーク君はヘザーさんの子供の父親でもある。ふたりは席につき、ポップコーンを食べた。やがて照明が暗くなり、日本だと予告編がはじまるところだが、オデオン座では、そうならなかった。スクリーンに、ヘザーさんの知っている人の顔が映った。ヘザーさんは動けなくなった。それは、彼女のとなりに座っている、マーク・スペンサー君の顔だった。スクリーン上の巨大なマーク君は、「ロマンチックすぎると思うか」といった。「おまえのぜんぶをあいしてる。それを、世界じゅうにしってもらいたいと思って」。ヘザーさんはなにもいうことができなかった。となりの席を振りむくと、、普通サイズのマーク君が片膝でひざまずいていた。差しだした手には指輪が握られていた。ヘザーさんはなにもいえなかった。ふたりは互いの背に手を回し、ゆっくりとかたく力をこめた。ヘザーさんは自分の目からなにかが溢れでるのを感じた。映画館の観客全員が拍手を送った。
 マーク君はこの日の前に、オデオン座の社長に、自分たちが映画を見にきたとき、プロポーズの言葉を書いた紙をスクリーンに映してくれないか、と相談にいった。オデオン座で働いているひとたちは、「もっといいことがある」といった。そして、マーク君が主演の、プロポーズ映像を撮影し、それを有名な海賊映画の前に、上映したのである。

  いしいしんじ 「熊にみえて熊じゃない」(マガジンハウス)pp10〜11

 いいお話です。そんなことを考えたマーク君も、オデオン座の皆さんも、そして、ふたりに拍手を送った観客のひとたちも。日本の国で、同じことを考えて、実行しようとしたら、どんなことになるかと思うと、つくづく日本人は他人に優しい民族ではないと、思わされます

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